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唐見実世子の尾根幹ロードレースダイアリー

こんにちは、THE BASEスタッフの唐見実世子です。

唐見実世子 の尾根幹ロードレースダイアリー】ということで、これから定期的に「ロードレースについて私が見たこと、感じたこと」を私目線でお伝えしていこうと思います。
今回は第一回ということで、まずは私「唐見実世子」が何をしているのか、そして先日行われた全日本選手権についてお伝えします。

私は現在、八王子は南大沢にあるTHE BASEでショップスタッフとして働きながら
同時に実業団チームのコーチ兼スタッフとして全国各地で行われているレースに帯同をしています。
帯同をしている実業団チームとは「MiNERVA-asahi」というチームです。

THE BASEではおよそ2年前のショップOPEN時からこのMiNERVA-asahiというチームに帯同し、レース時のメカニックや補給といった面でサポートをしてきましたが、私は2022年まで現役選手として国内外を18年以上走ってきましたので、その経験をもとに主にコーチという立場で現在このチームと関わっています。

 

今回、6月25日、26日に静岡県の伊豆修善寺にある「日本サイクルスポーツセンター」(通称 日本CSC)で行なわれた2023年全日本自転車競技選手権大会にMiNERVA-asahiから川勝選手と布田選手という2名の選手が出場したため、私もコーチングとサポートのために帯同しました。

この全日本選手権はMiNERVA-asahiをはじめとする実業団チームが参戦しているJエリートツアー(1年間かけて全国でレースが行われています)とは違い、参加する選手はアマチュアだけではなく、国内外で活躍するプロ選手も参戦します。普段はプロと実業団のチームが一緒に戦うことはほとんどありませんが、全日本選手権は違います。プロアマ含めて誰が日本で1番強いのかを決める大会といって良いでしょう。

そして全日本選手権は世界各国で行われているナショナル選手権の日本版。つまりここで優勝するということは世界的にも「日本チャンピオン」として見られるということになります。さらに優勝した選手は自分の所属チームのジャージにも1年間日の丸が入ることになり、どこから見ても日本チャンピオンであることが明確になります。名誉も価値もプレッシャーも特別であることはお判りいただけますでしょうか?

また全日本選手権に出場するためには、日本自転車競技連盟が定めた出場資格をクリアしなければならす、フルタイムワーカーであるMiNERVA-asahiの選手(=サイクルベースあさひの店舗スタッフ)にとっては、スタートラインに並ぶこと自体が狭き門であるとも言えます。

【何が大変?プロ選手とフルタイムワーカー選手の違い】

プロ選手は文字通り、それを生業としている選手の事です。つまり24時間365日、レースで活躍するために生活を組み立てます。年間レーススケジュールを元に、オフシーズン、トレーニング期、レース期というように1年間の過ごし方を区分して計画し、ピーキングを行います。※ピーキング=重要なレースに向けてコンディションを調子し、最高の状態にもっていくこと。

また日々のトレーニング、栄養、休養など、これまで積み上げたデータや経験から状況に応じて修正を加える事で、レースでより良いパフォーマンスを出す事を可能にしています。

一方フルタイムワーカーの場合、一日のうちの多くの時間を仕事に費やしています。また仕事とレーススケジュールの調整も簡単ではありません。レース活動と仕事を両立させるために、限られた時間でいかに効率よくトレーニング、栄養、そして休養を取り込んでいくか、そして何よりもそれらを継続させていく事が大切となります。家族や仕事の同僚の助けも必要になってくるかもしれませんね。仕事でも常に体力は奪われますし、残業をすることもあるかと思います。またストレスで身体が思うように動かない時もきっとあるでしょう。それでも「レースの日」は容赦なくやってきますので、ある程度の妥協をしながらのレース活動になる可能性が高いです。

ところで自転車業界の用語で「春需(はるじゅ)」という言葉があるのをご存じでしょうか?

春の進学・就職・引っ越しのシーズンは1年で一番自転車屋が忙しい時期で春の特需ということで春需と言います。MiNERVA-asahiの選手たちも本来ならば、シーズン開幕に向けてコンディションを整えておくべきところではありますが、たくさんのお客様に安心安全な自転車ライフを提供させていただくために当然業務を最優先しています。プロ選手と同じ自転車業界にいるとしても、レース活動を行うのは容易ではないと言えますね。

【全日本選手権に向けて彼らが取り組んできたこと】

MiNERVA-asahiは、現在Jエリートツアー(以下、JET)を主戦場としているチームです。全日本選手権の出場権を獲得したとしても出走せずにJETで活躍する事だけに注力するべきという考えもありますが、選手たちはまだ経験も浅く、高いレベルのレースを経験する事が個々の選手のレベルアップにつながり、さらにはチーム力アップにもつながるといった考えのもと、今回全日本選手権に出場しました。

したがって、プロ選手やその他有力選手のように全日本選手権に向けて、トレーニングやレースを積むというよりは、全日本選手権のイメージが沸かない状況というのが正直なところだった彼らにとって、トップレベルの走りを体感する事という、いわば「経験」が最大の目的でした。また機材面に関しても今年のコースはアップダウンがきつい特殊なコース(世界中のナショナル選手権の中で最も獲得標高の高いレースでした)だったのですが、特に軽量化をする事などは無く普段のレースと同じ使い慣れた機材で参戦しています。

今年の全日本選手権は、日本CSC8㎞サーキットを20周するトータル160kmのレースでしたが、出場する2選手にとっては初見のコースだった事から、事前対策として6月4日に行われた「日本CSCロードレースDAY2」に参戦し、本番に近い環境でコースの確認をすることになりました。

このレースはプロ選手と実業団選手が混走だったため普段のJETのレースより難易度も高く、まさに模擬全日本選手権といって良いレース。MiNERVA-asahiの選手にとってはコースの下見という一面だけでなく、全日本に向けてコンディションを高めるという側面も大きく、意味のあるものでしたが、一方で国内上位の選手たちとの力の差を実感した一日でもあったようです。

【全日本選手権をどう戦うか?事前の作戦・戦い方や目標は?】

自転車レースは「チームVSチーム」の戦いです。

今年の全日本選手権は海外遠征や国内のUCIレースの状況からも前評判の高いJCL TEAM UKYOを筆頭にKINAN Racing Team、シマノレーシング、宇都宮ブリッツェン、TEAM BRIDGESTONE Cyclingといった有力チームに対し、昨年の覇者であり日本人唯一のUCIワールドチーム所属の新城幸也選手(BAHRAIN VICTORIOUS)が単騎で挑むといった構図になるのはレース前からわかっていたこと。

これらのチームや選手達の思惑が複雑に絡み合う事、またチーム内でのエースやアシストなどの大まかな役割が決まっている事から、流れによってはMiNERVA-asahiが完走する可能性もゼロではありません。チームとして理想としていたパターンは、勝負に関係のない逃げグループができた場合は、その逃げグループに乗り、一定ペースで周回を刻む事。またそのような展開にならなかった場合は展開を読んで対応できるようレースメイクを行うチーム、つまりはチカラのあるチームの近くに位置取る事でした。現時点でのMiNERVA-asahiは決してレースメイクを行えるチームではないので、強いマインドでレースを戦えるかどうかが最も重要な事だったと言えます。

国内有力チームの立場から考えた場合、新城選手を含まない逃げを形成させる事がポイントでした。スタートしてから数周回は各チームの作戦や思惑から、逃げグループが出来そうになったり、またそれを阻止しようとする選手がいたりするため、ペースの安定しないインターバルがきつい時間帯が続きます。MiNERVA-asahiとしては、逃げ集団が形成されるまでのこの苦しい時間帯をしのげる事が出来れば、メイン集団の動きは一旦は落ち着く事が予想できるため、次の展開に備える事ができるというわけです。そして仮に勝負所で千切れてしまったとしても、完走を目指す集団でなんとかゴール=「完走を目指すこと」が目標でした。

【レースレポート】

実際のレースはというと、序盤に有力チームのエース格を含む強力な逃げが決まり、5周目以降に新城幸也選手による追走の動きもありましたが、結局逃げを捕まえるには至らず。勝ったのはJCL TEAM UKYOの山本 大喜選手でした。2位にも同じくJCL TEAM UKYOの岡篤史選手が入り、ふたを開けてみればJCL TEAM UKYOのワンツーフィニッシュという結果。

【MiNERVA-asahiの2選手は。。。。】

例年にない厳しいコースレイアウト、普段戦う事のないプロ選手たちが作る速い展開に順応する事が難しく、メイン集団でひたすら耐える厳しい時間が続きましたが、メイン集団の新城選手のペースアップに耐え切れず、2選手とも6周回目で集団から離れてしまいました。その後も少人数のグループで粘りの走りをしましたが、全行程の半分となる10周回目完了地点で、DNF(途中リタイア)という結果に。

私、唐見個人の見解としては、6月初旬に行われた全日本選手権のプレレースのイメージが良くなかったのか、大会に飲まれてしまっている印象がありました。当日は普段のレースと同じようなルーティンで行動できたでしょうか?実力以外の部分でも、課題が浮き彫りになったレースになったと感じています。レースでの勝負所やペースアップでは、力があるないに関わらず、動かないといけません。もし仮に力が足りないのであれば、勝負所に至る前から仕掛けていく、又は対応していかなければなりません。メンタル面でネガティブになっていたり、レースの空気に飲まれていると、そのタイミングを逃してしまったり、何もしないまま集団の後方に追いやられ、気が付いたら千切れてしまってる場合も多々あります。MiNERVA-asahiはまだまだ経験が浅いので、どんなレベルのレースであっても挑戦者である事を忘れずに、チャレンジして欲しいと思いましたし、伝えていかなければならないと深く感じています。

厳しい結果をつきつけられてしまった2選手でしたが、彼らのレース後の思いはとてもポジティブで、すでに来年の全日本選手権に向けて、明確な目標を持ってペダルをこぎ始めています。次の全日本ではもっと多くのMiNERVA-asahiの選手がスタートラインに並び、進化した走りを魅せてくれることでしょう。


THE BASEでは様々なレース現場に帯同し、生の情報やレースシーン、現場の声をいち早く皆様にお届けできるよう、そしてより楽しいサイクリングライフをお届けできるように心がけております。

もちろん普段は店舗にいますので、いろいろなご質問にもお答えすることで可能です。是非皆さまのご来店をお待ちしております。